業界タブー ~職人の引き抜き~
最近、仕事はあるが職人がいないといった声を多く耳にします。人手不足とはいえ未経験者を1から育てる余力がなく、同業種での経験があり仕事ぶりも分かる職人が採用出来ればこれほど助かることはないでしょう。もちろん同業種で、しかも取引がある会社からの引き抜きとなれば建設業界に限らずタブーですが実際には珍しいことではありません。今回は同業者からの引き抜きについての論点を整理したいと思います。
転職する職人側で注意すべき点は競業避止義務です。競業避止義務とは、在職中又は退職後一定期間、その会社の利益に反する競業行為をしない義務を労働者が負うものです。例えば会社独自のノウハウや顧客情報を持ち出す行為、同僚や部下を大勢に引き抜き転職する場合が問題となります。ただし原則として就業規則などで定められていることが前提となり、規則などでどういった合意がされているか確認が必要です。
一方で労働者には職業選択の自由が憲法で認められています。競業避止義務の規定があるからといってやたらに転職の制限がされるわけではありません。引き抜き行為に関してある判例では「個人の転職の自由は最大限に保障されなければならない。引き抜き行為のうち単なる転職の勧誘に留まるものは違法とはいえない。」としています。
違法性が認められるのは「単なる転職の勧誘を超え、社会的相当性を逸脱し極めて背信的な方法で行われた場合」に限定しています。引き抜き行為が社会的相当性を逸脱しているかどうかは、転職する従業員のその会社に占める地位、引き抜かれた人数、従業員の転職が会社に及ぼす影響、転職の勧誘に用いた方法などが判断基準となるようです。
腕の立つ職人は今後も引く手あまたで、引き抜きとなれば現状より好待遇で迎えられるケースが多いでしょう。自社の職員が引き抜きにあった際、反対に自社へ職人を勧誘したい場合には、上記を参考に職業選択の自由と競業避止義務のバランスを上手に考えていただければと思います。
【文責:鍵田貴之/プロフィールはこちら】