本やセミナーからは学べないもの
私は以前、職場の同僚からこんな指摘を受けたことがあります。「髙山君は本を読んだりして色々な知識はあるかもしれないけど、いくら野球が上手くなる本を読んでも、カーブを投げることはできないよ」。確かにもっともな意見です。どれだけ正しいピッチングフォームやボールの軌道、重力がボールに与える影響などを知っていても、カーブを投げることはできません。そんな勉強をする暇があったら、一球でも多くボールを投げた方が野球は上達します。
仕事で何かを学び、成果をあげるためには、2つの知識が必要だといわれています。一つ目は、作業指示書や言葉で伝えることができるもの(形式知)、二つ目が文字や言葉では伝えることができない経験や勘といったノウハウです(暗黙知)。例えば、接客の場面で考えてみましょう。詳細な接客マニュアルに従って、手順通り、一字一句間違えずセリフが言えたとしても、顧客がその接客に満足することはあまりないでしょう。マニュアルにはないその場の空気にあった微妙な声のトーンやしぐさ、表情といったものが重なり合って、顧客に感動を与える接客ができるのです。これらは実際に現場で見て、触れて、自ら体験しなければ、いくらマニュアルを読み込んでも学ぶことはできません。「百聞は一見に如かず」ということです。ところが、組織階層の上に行けば行くほど現場から離れてしまい、数字やデータ、あるいは本で読んだ〇〇理論というものだけに頼って仕事を進めてしまいがちです。そして、あたかも自分は優秀であるかのように勘違いしてしまうのです。もちろん、書物やセミナーなどから学ぶことは大切です。しかしそれだけでは、頭でっかちな評論家になるのが関の山です。
ファミリーマート社長の澤田貴司氏は、社長に就任したとき、実際の店舗に入り3週間レジ打ちから接客までの研修を受けたそうです(今でもときどきレジに入るそうです)。そこで実際の生のデータに触れるとともに、自らが体験し、ともに学び、そこから業務改善のヒントを得ていったのです。私もそろそろ、うんちくを述べるのはこのくらいにして、さっそく現場に戻って仕事を始めたいと思います。
(文責:髙山正)