間違った地図
「踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる」(アントニオ猪木「道」)
人事制度の一つに目標管理制度というものがあります。期首に個々人が今期の目標を立て、その目標を達成するために必要な計画プロセスを練ります。上司は四半期ごとに、計画通り進んでいるか、部下の進捗管理を行います。しかし、この管理手法は果たして有効なのでしょうか。
こんな話があります。ハンガリー軍がアルプス山脈で軍事演習を行っていました。すると急に雪が降りだし、吹雪が2日間続きます。軽装だったこともあり、隊はすっかり道に迷ってしまいました。「もはやこのまま遭難してしまうのではないか」最悪の事態が頭をよぎります。そんな中、一人の隊員が荷物の中から偶然にも地図を見つけ出しました。「この地図に従って山を下れば無事ふもとに辿り着くことができる」隊の中に安堵が広がりました。途中、尾根を越え、急な斜面を下り悪戦苦闘しながらも、3日目にようやくふもとの目的地まで辿り着くことができました。無事帰還すること待っていた上官は、「よくこの吹雪のなか戻ることができたな」と労いの言葉をかけました。隊長は「この地図のおかげです」と、例の地図を上官に見せました。すると、上官は大声で笑い、「こんな状況で冗談を言えるなんて余裕だな。これはピレネー山脈の地図じゃないか!」。
この話からいくつかの教訓を得ることができます。その一つは、必ずしも正確な計画(地図)はいらないということです。大事なことは、目標(無事下山する)に向かって一歩を踏み出すことです。歩みながら道をつくるのです。その一足が道となるのです。
経営環境の変化が激しい現代において、将来を予測し、計画を立て、その計画通りにものごと進めようとすることは、あまり意味がないのかもしれません。それよりも、前進しながら試行錯誤と学習を繰り返し、自らが道を切り開いていくことの方が重要なのかもしれません。
(文責:髙山正)