旅館「元湯陣屋」その2(情報の共有化)
前号に続き「元湯陣屋」V字回復の要因を考えたいと思います。4代目社長の就任は3代目社長の急逝ということもあり、修業期間や引き継ぎもない中での就任となりました。さらに、経営情報が全く一元化されておらず、例えば、顧客情報は入院中の前女将の頭の中、営業情報は営業担当者の手帳の中、予約台帳はネットと紙と2つありPCを使える担当者は1人だけ・・・といった状況でした。このため、例えば、「予約のメールが届いたら、まず印刷し台帳に転記する。部屋割りは手作業で、その情報は当日再び紙に書き写して従業員に配る」といった具合のためフロントだけで4人の従業員が必要でした。このような状況のため、バックヤード業務に時間がかかりすぎて肝心の接客がおろそかになるという事態に陥っていました。
そこで、4代目社長は①情報の見える化②PDCAサイクルの高速化③情報は持つだけでなく活用させる④日々の仕事を効率化し、お客様との接点を増やす。という4つの改善目標を掲げました。この事を実現するため、当初はタブレット端末とトランシーバーによる情報の共有化を試みました。しかし、文字情報として残す必要がある情報はSNSに手入力で投稿しスタッフが共有するといった手法をとっていたため、手間や即効性に課題があるなどなかなかうまくいきませんでした。
そこで、東芝の「RECAIUS」という音声認識ソフトを活用した独自の情報共有化システムを開発しました。このシステムは、スタッフが携帯している端末に話すと文字情報に自動変換され社内SNSに表示されます。スタッフ間での会話もでき、会話した内容を音声で聞きなおすこともできます。このため、従来個人所有となっていた顧客の過去の利用履歴などの情報を全体所有に変えることで、より細やかな「おもてなし」が実現されました。さらに会議などの非生産的な業務を最小限にすることができました。また、スタッフ全員がSNSなどのIT技術を違和感なく使うようになり、さらなる活用アイデアが出るようになりました。
いかがでしょうか、旅館も介護も同じ接客業のため、今後の介護業務のヒントになる点があるのではないかと思います。
【文責:竹内光彦】