人工知能(AI)が労務管理をガラリと変える
前回「月刊経営」No286「消える職業・なくなる仕事」でお伝えしたように、人工知能の発達により、ルーチンワーク(定型的業務)だけでなく、複雑な仕事もコンピュータで処理できるようになってきます。このこのことは、人間の行う仕事が、よりヒューリスティック(創造的、創発的)な仕事にシフトさせていくということを意味します。大手コンサルティングファームのマッキンゼーの調査によれば、すでにアメリカでは、新たにつくられる仕事の内、ルーチンワークはおよそ30%程度に過ぎず、残りの70はよりヒューリスティックな仕事が占めているそうです。もっといえば、創造性のないビジネスは今後淘汰されていくことを示しています。
では、創造的な仕事が労務管理にどう影響をあたえるのでしょう。それは今までのような良い成果には高い報酬を与え、そうでない場合には罰を与えるという「アメとムチ」による労務管理が通用しなくなることを意味します。例えば、芸術家は創造的な職業の一つといえますが、芸術家に高い報酬を与えたり、ときには罰を与えたからといって素晴らしい作品ができるでしょうか。
最もクリエイティブな製品を世に送り出してきた企業の一つにアップルが挙げられます。そのアップルに戻ってきたときのスティーブ・ジョブスの役員報酬はたった1ドルでした。もともと億万長者だったとはいえ、ほぼ無報酬であそこまで仕事に没頭した彼の動機は何だったのでしょう。それは、お金や名誉ではなく「アップルで世界をちょっとだけ住みやすくする」という貢献的な想いと何より自分の仕事を楽しんでいたとうことでした。すくなくとも、メジャーリーグのイチロー選手もお金のためだけに、あそこまで野球に打ち込んできたわけではないでしょう。
確かにルーチンワークであれば、今までのようなアメとムチによる管理でも一定の成果を上げられます。しかし、より創造的でより創発的な仕事になればなるほど、報酬は当然のこととして、仕事そのものに意義を与え、その仕事に誇りを持たせ、仕事が楽しく好きになるよう動機づけることが、より高い成果を上げるのに重要なのです。人工知能の進歩により、今までの労務管理を見直さなければならないときが、いずれ訪れるでしょう。